俺の独り言(シニア男の本音トーク)のブログ

台湾東部、花蓮に家族で移住したシニア世代に突入した中年男の本音トーク。同年代に送り届けたい独り言。若い世代に残したい独り言。

布農族と台湾大学の戦い

昨日、日本の某地方新聞社の記者さんが花蓮県萬栄郷馬遠村へ取材に行くということで、俺に通訳の依頼があった。
実は俺と馬遠村とは縁がある。
今から3~4年前、同村を台風が直撃し、土石流の被害があった。俺はすぐに現場に向かい、被害状況を把握、必要な支援物資を聞き出し、日本へ向けて支援要求を出した。
その結果、日本から支援物資、義援金が集まり、俺はそれを持って同村へ届けた。


今回の取材は、台湾大学に保管されている人骨の返還要求運動に関するものだった。
1960年代に台湾大学の研究者が同村を訪れ、原住民族のルーツを調査するという名目で、墓を掘り起こし、半ば強制的に人骨を持ち帰った。
当時の台湾は、蒋介石の時代で、戒厳令下にあった。政府に対し、批判したり、文句を言うものは身柄を拘束された時代。祖先の墓を掘り起こされたのは、馬遠村に住む原住民・布農族の人々だった。
当時の事を知る今の長老達は、全員がこの事実を語ろうとはしなかった。


時が流れ、今年に入り、台湾大学で人類史を学ぶ布農族の女子大学院生がある日、一本の論文を目にした。そこには、自分と同じ、馬遠村出身の布農族の遺骨の写真が掲載されていた。驚いた彼女は、知り合いの東華大学の教授に連絡、教授は事実確認をするために、馬遠村を訪問した。当然、その話を聞いた今の世代の村人は、全くそのような事実は知らず、すぐに、村の長老達に確認を行った。最初は語ろうとしなかった長老達も徐々に重い口を開き、「確かにそのような事実はあった。しかし、我々は当時、その遺骨を何の目的で掘り起こし、どこへ持って行くかは一切聞かされていなかった。戒厳令下では、政府の人間(台湾大学は国立大学。教授陣は国家公務員にあたる)に逆らうことも出来ず、従うしかなかった」と。


この事実を知った馬遠村の人々は激怒した。そして、すぐに台湾大学に事実確認を行うも、台湾大学側は彼らの訴えを門前払いした。
しかし村人は諦めず、今度は、原住民立法議員に陳情。議員が台湾大学に対し、事実確認を行うと同時に、情報公開を求めた。政治力による圧力で台湾大学側はやっと、事実を認めた。


何故、台湾全国にいる原住民の中から、馬遠村の布農族が選ばれたのか。1960年代当時、この研究には、日本の大学(九州方面)も関与しており、日本・台湾両大学の研究者の報告では、「マラリア等々の伝染病の心配がなく、完全な状態で遺骨を発掘できる場所はどこか」という項目に、両大学の意見として「①布農族は、土葬の習慣があり、彼らは、台湾人とは違い、一度土葬した遺体は掘り起こすことはない。(台湾人の場合、当時は、ある一定の期間は土葬し、その後、墓を掘り返し、遺骨だけを取り出し、別の墓に移す習慣があった)丁度、花蓮県馬遠村では墓地が手狭になっており、別の場所に移転する予定がある。しかも、馬遠村は伝染病の心配もなく、発掘に十分な時間を費やすことが出来る」という理由から、馬遠村が選ばれた。


60年近くこの様な事実を隠していた台湾大学に対し、馬遠村の人々は、遺骨の即時返還と、慰霊碑建立のための費用負担及び、研究成果の公表等々を台湾大学側に要求している。


さらに、この運動の代表である馬鍾啓氏は「台湾大学にはほかにも数多くの遺骨が保管されている。例えば、日本の沖縄民族の遺骨、北海道のアイヌ民族の遺骨、台湾の他の原住民族の遺骨などもある。我々の運動をきっかけに、全ての遺骨が故郷へ返還されることを願っている。」と語った。
また、この事実を語ろうとしなかった長老達に対しても「時代が時代だった。語りたくても語れなかった。だから長老達を責める気はしない。しかし、今の時代は、自由に何でも語れる時代。だから、全ての事実を語ってくれた長老達には感謝している。自分達の目の前で、祖先の遺骨を持ち出されるのを黙って見ているしかなかった長老達も気持ちを考えると、台湾大学には即時返還をしてもらいたい」とも語った。


研究のために必要だったという大学側の言い分も理解できるが、遺骨を持ち帰った事実を秘密にし、情報公開要求があっても、政治的圧力がかからない限り、公開しようとしなかった大学側の姿勢には大きな問題が残る。
また、研究が済んだならば、即時に遺骨を返還すべきなのに、それも行わなかったことは大きな問題だろう。


昨日は俺にとっても非常に良い経験をさせてもらった。
まだまだ知らない事の方が多い。常に謙虚な気持ちでいる事が大切だ。
何年台湾に住んでいようとも、俺は台湾人にはなれない。あくまでも外国人。台湾に住まわてもらっている外国人。言葉が話せても、生活習慣が台湾流になっても、食生活が台湾流になっても、俺は外国人だ。故に、知ったかぶりはせず、新しいことを常に吸収していく姿勢で生き、少しでも台湾の人々に近づける様に努力することが大切だ。


俺はそう思うけどなあ。

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