叱るな、怒鳴るな、甘やかすな。教え、導け!!
俺達シニア世代の子供の頃のスポーツといえば、野球だったよな。
今の様にサッカーと野球が人気を二分するなんて想像もつかなかった。「男の子は野球」これが当たり前だった。
俺も野球をやっていた。社会人になってからも、自分のチームを作ってやっていた。
若い頃はピッチャー、オジサンになってからはキャッチャーをした。
子供の頃、父親と一緒にキャッチボールをするのがいつも楽しみだった。その当時の記憶は今でも鮮明に覚えている。
俺が大学生の時、近所の子供達を集めて野球チームを作った。俺が監督。
「野球なんてやったこともない」という子供もいたよ。ボールの握り方から始まり、投げ方、打ち方等々、基礎から教えていった。
ある日、別の少年野球チームから試合の申し出があった。俺はそこで衝撃的な場面を見た。
相手チームの父兄や監督、コーチ陣の子供に対する罵声。応援ではない。あれは完全に罵声だ。聞くに堪えない様な言葉で、ミスをした子供を叱る。時には、手も出ていた。
子供達はミスをしてはいけないと緊張し、余計にミスが出る。そしてまた罵声に暴力。
対戦相手の俺のチームに対する野次もすごかった。
子供が試合しているのに、父兄は、ビールを飲みながら観戦していた。俺は二度と、そのチームと試合はしないと決めたね。
俺は練習中も試合中も、子供を叱らない。叱るヒマと労力があるならば、教える。ミスの原因を見極め、そこを修正するために、徹底的にその部分を練習させる。
試合中も、父兄に対しては、グランドに立っているすべての子供に声援を送って欲しいと頼んだ。もちろん、アルコールは厳禁。
人間は誰でもミスをする。だから人間なんだ。完璧な人間なんて存在しない。
問題は、ミスをした後のことだ。叱ることは簡単なことだ。特に、子供や部下に対して、ミスを指摘し、叱ることは簡単だ。しかし、親として、上司として、その簡単な方法を選んで良いものなのだろうか。
「褒めて伸びる人間と叱って伸びる人間がいる」と言うけれど、これは完璧なる信頼関係の上で成り立つものだと思う。
例えば、部下が上司を信頼し、「この人を男にしたい」とまで思っているか。また、上司は部下に対し「ミスは恐れるな。すべての責任は俺が被る」とまで思っているか。
子供に対しても同じだ。親もミスをする。例えば、子供がグラスを床に落として割ったとしよう。その時「何してるの!ボーとしてるからよ!!このグラス、高かったのに!!」と感情むき出しにして子供を叱る親。一方は、「怪我はない」と真っ先に、グラスよりも子供の事を心配する親。その両方の親が同じようにグラスを割った時、最初の方の子供は「自分だって割ってるじゃないか」と心でつぶやき、見て見ぬ振りをするだろう。後者の子供なら「お母さん、大丈夫。怪我はない」と心配して飛んで来て、一緒に片づけをするだろう。
野球の話に戻すと、スポーツはまずは楽しまないと長続きしないし、怪我の原因にもなる。勝つために練習はしている。しかし、勝つ事の喜びよりも、負けた時の悔しさの方が子供を成長させる。自分のミスで試合に負けた時、子供は、二度と同じミスをしないように、今まで以上に練習をする。自分で自分を鍛える。身体も心も両方を。
そして、子供はミスを克服し、新たなる目標を立てて練習に励む。勉強も同じだよ。仕事も同じだよ。
日系企業が台湾に進出し、地元の人達を採用する。幹部は日本からの駐在員。
日本人は何故だか、海外に進出しても、日本式を貫こうとする。確かに、日本式の良い面は沢山あるが、全てではない。相手が日本人だから通用するという事も多々ある。
事務職として採用した台湾人に「お茶当番」「ゴミ捨て当番」なんて押し付けると大変な事になる。以前にも書いたが、台湾人は、「どこで働いているか」ではなく「どんな仕事をしているか」が重要なのだ。仕事の内容に誇りを持っている。
また、台湾人は面子を重んじる。何かあると必ず「没有面子(面子がない)」と怒り出す。プライドは高い。故に、日本の様に、他人の前で叱るとすぐに会社を辞める。
しかし日本人にはそれが理解できない。「俺は彼に(彼女に)大きな期待をしている。だからこそ、厳しくもする。しかし、台湾人にはその気持ちが伝わらない」と嘆く駐在員の人もいた。俺はその人に「叱るなら、誰もいない場所で、ゆっくりと理詰めで話をしなければならない。台湾人は言い訳から始まり、言い訳で終わる。だから、理詰めは大切。しかし、最後まで追い詰めてはいけない。その手前で止める。」とアドバイスした。
台湾人は自分の非を認める=負けを意味する。だから、最後まで非を認めない。認めたとしても、それは表面上の事で、本音の部分では「私のせいではない」という気持ちが根強く残っている。
にも拘わら、人前で、上司から怒られたとなると、もう終わり。即刻、退職願が届く。
俺が以前経営していた会社には、各店舗の支店長が12名、副店長が12名、販売員が30名、本部スタッフが5名いた。
月一回の支店長会議の席では、俺は最後まで何も発言しない。売り上げが悪い店舗に関しては、他の店長や本部スタッフが懸命になって原因を追究し、対策を練る。
当然、俺に意見を求めることもある。その時は、俺なりの考えを伝える。命令、指示ではない。
答えが出ない、迷路に入り込む時もある。そんな時は、「こっちだよ」と手を振ってやるのが、幹部の仕事。
家庭でも同じだよ。子供が迷路に入り込んだ時、手を振って手招きしてやるのが親の務め。無理やり手を引っ張って行くのはではない。まして、迷路に入った事を叱ったり、罵声を飛ばしたりすると、子供は余計にパニックになってしまう。
最後に、これだけは言っておきたい。
子供は、部下は、甘やかすな。しかし、叱るな。怒鳴るな。教え、導くものだ。